狩人

暑い暑い海の日の事
ショッピングセンターを散歩して帰宅した夕方。
建物に沿うようにひらひらと舞い降りる物を見た。
巣立ちのヒナが上手く飛べずに、重力と戦うまでも無く地べたに
降り立った。
たぶん、ここいら
と、落ちたはずのところを覗いたが、
奴さんもさすがに野生の血で息を潜めていたと思う。
草にまぎれて姿を確認する事は適わなかった。


部屋に戻ってしばらく、外でやけに鳥の声がけたたましい。
気になってベランダを除き見ると、相方が下のほうを指し示す。
ありゃ。
そこには、先ほどの雛と同種とおぼしきヒナがいた。
下の雛の落ちた場所は階段の下で、3階のベランダは方向が逆なので、
違うヒナがこちらも重力に負けた模様。
どうも、見切り発車である。


ベランダの雛はじっと動かないが、たまに鳴く。
くちばしを大きく開けるので、お腹が空いているかも。
と、相方が言うが、猫の餌はあれども鳥の好みそうな物は無い。
本来は虫なんかがいいはず・・・
生米?
あ、胡麻はどうかな。
胡麻を少しすりつぶして水を混ぜて
くちばしを開けたところにするりと飲ませた。
食いなれない物に面食らったのか、それきり口をあけようとしない。
好みでなかったのかもしれない。


仕方が無いと思っていたところへ、強敵現る。
メイちゃんである。


こりゃいかんと雛を捕まえるつもりが、はたっと飛んだ。
すかさずメイが食いついた。


部屋の中へ雛を咥えて逃げるメイを抑えて雛を奪う。
そのまま階下へ降りた。
ぐるっと回って、ベランダ側の木にでも置いてしまおうと思うが、
手の中の雛は目をつぶって動こうとしない。
考えあぐねているとベランダから相方が呼ばわる。
階段のほうで、ヒナが鳴いているという。
また、ぐるっと回って階段の下に来た。
アジサイの枝に止まって大きく鳴いている雛がいた。
こちらはとても元気そう。
へんな胡麻を食わされたあげく猫に咥えられて
人生の総決算を迎えたかと覚悟を決めたかもしれない
手の中の雛もその声に気付いて目を開けた。
近くに親鳥らしき鳥も集まってきた。
ヒヨドリだ。


アジサイの枝に雛を乗せて、私たちは引き上げる事にした。
ヒヨドリ・・・帰って来いよと鳴いていたのか・・・